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#141 2021年7月 注意力が一瞬途切れる時

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先月に「遅ればせながら、関東地方でもやっと梅雨入り宣言」と書いたのですが、今月は「早くも梅雨明け宣言が出まして」というぐらいに、今年の梅雨は短いものでした。
しかし、熱海の土砂崩れのように甚大な災害にあった地域もあり、今後も変わりやすい夏の天気には注意が必要です。


踏切事故

7月8日の夜に、東京の東武東上線の東武練馬駅の踏切内で31歳の女性がに電車にはねられて死亡したことは、報道各社のニュースで多くの方がご存じのこと思います。

本当に痛ましい事故で、心からのお悔やみを申し上げます。
ここの踏切は道路幅も狭く、東上線の南北を連絡する道路が近くには少ないために交通量が多い踏切です。
また東武練馬駅の構造的に駅の南口改札を利用される方が多く、北口にお住いの方でも南口改札を出てから踏切で北側に渡るという経路をとる方もたくさんいらっしゃると思います。

事故のあった19時台には上下合わせて30本の列車が行きかうのですが、東武練馬駅を通過する急行や準急はちょうどスピードが出てきているところでもあり、以前から危険が指摘されてきている踏切でした。


事故の概要

各社の報道が伝えるところによると、この女性が事故の直前までスマートフォンを操作しており、警報機が鳴り始めた直後も操作を続けながら踏切内に入ったということです。

ご存じのように、鉄道の踏切は警報機が鳴り始めた途端に遮断機が動作を開始するのではなく、少しの間を置いてから閉まり始めます。
これは、警報機と同時にいきなり遮断機が閉まり始めたのでは、横断途中の人が踏切内に閉じ込められることになってしまうため、「(踏切内にいる人は)急いで渡ってください」という意味でも、有効な動作だと言えましょう。
このことを逆に言うと、「警報機が鳴ったら(踏切の外にいる人は)渡ってはいけません」という意味でもあります。

それならこの女性は無理をして踏切を渡り始めて、踏切内に閉じ込められて事故にあったのかということになりますが、各社の報道のニュアンスではどうもそういうこととも違うようです。

報道各社がいわゆる「すっぱ抜く」スクープ記事とは違い、事件性の薄い事故であるため所轄警察の発表を踏まえて、この事故の報道が同じニュアンスになっているのですが、次のようなことだったと思われます。

 


女性がスマートフォンを操作しながら(または画面を見ながら)踏切に差し掛かったところ、警報機が鳴り始めた。

その時はまだ遮断機は閉まっておらず、女性はそのまま(気づかないまま?)(イヤホンをしていたかも?)踏切に差し掛かった。
横断する途中で向こう側の遮断機が下りてきた。

しかしその棒を見て自分は踏切の「外側」にいると思って、そこ(踏切内)で踏切が開くのを待っていたところを電車にはねられた。


 

のではないか、ということでした。

スマートフォンを操作中であったということは多くの人が見かけています。


もしそうだとしたら…

最終的には「自分の不注意と勘違い(思い違い)が招いた事故」ということで片付けられてしまうのかもしれませんが、この女性の事故が他人事では済まされないのは、きっと自分の身の回りにあったいくつもの出来事を思い出させるからです。

 

・ スマートフォンを操作しながら自転車に乗っている人を見た、あるいは寸前で接触しそうになった経験がある人、あるいは逆にそうなりかねない乗り方をしたことがある人。

・ イヤホンで音楽を聴きながら歩いていたら、自動車の接近に気が付かなかった人。

・ その時に気が付いたら自分がかなり車道の中央近くを歩いていた人。


注意力って

いつもいつも緊張して、周囲に注意をはらって生活するというのは、言うまでもなく大変くたびれるものです。

ですからそれを補うのに人間を含めた生き物には「学習」と、それを蓄積した「知識」が身につくのでしょう。
そしてさらに、人間はそこから想像力でその先を考えた「知恵」を持っているのだと思います。

 

初めての場所に、事前の知識をなにも持たずに行くと、本当に途方に暮れてしまいます。
でも二度三度と訪ねるうちには自然に様々な情報が蓄積され、「知識」として活用されるので、緊張から解放されます。

その緊張から解放された分だけ、本当はそれは気持ちの余裕となるはずですが、その余裕が「慣れ」になってまた新しい別の事に使うと、今度は注意力が散漫になり、今回の事故で言えば、その気持ちの余裕を全部スマートフォンに集中させてしまった所に一つの要因があったと思います。

 

いつも通っている道を、いつも通りに帰る。

スマートフォンを見ながら歩いていたら、視界の淵に遮断機の棒が見えている。

遮断機の棒は外から見ても内から見ても同じ模様にしか見えないので、下を向いた自分が立っている場所を踏切の外だと思った。
もしかしたらイヤホンで周囲の音が聞こえていなかったのかもしれません。

女性と同じようにスマートフォンを操作していた人の多くは、女性の行動に気が付かなかったのかもしれませんが、気づいた何人かは必ず大声で呼びかけたと思います。

でも、その声も届かず、電車が接近する音も聞こえず、電車が警笛を鳴らしても、それが自分に対するものだとも思わないままはねられてしまったのでしょう。

 

今回の事故のような出来事は、身近でも十分に起こり得る出来事です。
事故に遭われた女性には心からのお悔やみ申し上げますが、これは彼女から私たちへの教訓として、「自分の普段の行動に余裕を持ち、かつ身の安全に対して注意を払うべきである」ということを考えさせてくれました。

「〜しながら」という行動が、普段は何事もなく過ぎても、時折牙をむいて我が身を危険にさらす事があるのを忘れないようにしたいものです。

 

#063 2014年7月 屏奴 もご参照ください


※ WEB版での追記

   現時点で特になし


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