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#072 2015年4月 空模様がおかしい

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空模様がおかしい?

今年もお天道様はやってくれました…。

東京の桜も満開になった新しい門出の4月というのに、前日予報で「最低気温3度、最高気温7度」という天気予報のもと、まさかまさかの雪!!

たしか数年前にもこんなこと(桜開花の後に降雪)がありましたが、ちょっと想定外の寒さでしたね。

あの年の夏がどうだったか忘れてしまいましたが、俗に寒い冬の年は暑い夏になるとも言います。

今月のテーマの「空模様」といっても、異常気象に代表されるようなお天気の話ではなくて、今回は飛行機の話です。


最近に起こった事故が話のきっかけなのですが…

今年の2月4日11時ごろに、台湾の台北松山空港を離陸したトランスアジア航空(復興航空)235便(GE235便)の旅客機が、離陸直後に川へと墜落した事故がありました。

その模様は、高速道路を横切ってタクシーにぶつかりながら落ちていく様子がテレビのニュースでも報道されたので、まだ記憶に新しいところと思います。

この事故は、離陸直後にエンジンに故障が起き(事故機は左右に一つずつのプロペラエンジンがついていました)、推進力が得られないまま失速して墜落したものと言われています。

この一年を振り返っても、マレーシア航空(インド洋とウクライナで撃墜の2件)、先日のジャーマンウィングス(ドイツLCC)と、数件の航空事故が起きてしまいました。


航空事故って

すべての乗り物には、多かれ少なかれ「事故」を起こす(あるいは事故にあう)確率があります。 

それはベビーカーであっても、宇宙ロケットであっても、「人がなにかの機械(道具)に乗った時から、事故は起こる」ものとして意識されてなくてはなりません。

そして実際に事故にあった時に、地に足がついていない航空機の場合、一度の事故での死亡者数が多くなるため、重大な災害になります。

そのために、いかにして安全性を確保するかということについては、国内の法律だけでなく、世界で取り決めた安全を守るための法律や規則で運行される、ということが大前提になっています。

それは日本の国内で、道路交通法という法律の下で、自動車を運転することと同じで、「信号を守る」「スピードを守る」といったことを前提としているからこそ、自動車も歩行者も安全に通行できていることと同じといえます。

それでも交通事故が起きるのと同じに、どんなに厳しい規則の下に細心の注意を払って航空機を操縦しても、「人がなにかの機械(道具)に乗った時から、事故は起こる」ということは避けられません。


フェイルセーフという考え方

航空機は安全な乗り物だと、よく言われます。

乗り物も含めて機械(道具)というものは、誰も口に出して言いませんが「壊れる」ということを前提に使っています。

家でも、自動車でも、100年後も1000年後も今日と同じ機能と性能であり続けるとは、誰も思っていません。

しかし壊れるときには、より被害が大きくならない方向に壊れるべきであるのは、言うまでもありません。

たとえば自動車のエンジンが壊れるときに、制御不能な高回転に回って壊れるより、故障した時に燃料をカットしてエンジンが止まる仕組みになっていれば、人間が管理することができます。

そして安全装置のための安全装置が付け加えられれば、さらにその機械に万一故障が発生しても、それを避けるだけの安全(装置)を機能させるというのが「フェイルセーフ」の基本的な考え方になります。


それでも避けられないで起きる事故

1985年8月12日、誰もが忘れられないJAL123便が群馬県の御巣鷹山に墜落したあの事故が起きた日です。

世界で一番安全な旅客機と言われたジャンボ(ボーイング747型機)が墜落したのは、

 

「以前の修理が不完全で」

「客室内で与圧した空気が一気に垂直尾翼に抜けて」

「それが尾翼を壊して」

「操縦不能になって」

「墜落した」

 

というのが、今日では定説になっています。

フェイルセーフの考え方に基づけば、航空機事故の最悪の結末は墜落を起こすということです。

その手前にある、操縦不能になるということは、「絶対に」起きてはなりません。

それではなぜジャンボは墜ちたのでしょう?

 

飛行機は前にしか進まないため、操縦は「左右」か「上下」に行うことになります。

これを直接的に操縦するには、「左右=垂直尾翼(縦方向の尾翼)」と「上下=水平尾翼(横方向の尾翼)」の操作になり、この大きな部品を動かすために、主翼(前の大きな翼)についたエンジンの出力を利用して「油で押し戻しする力=油圧」を利用して操縦しています。

ジャンボでは4本の油圧を管理するパイプがお互いに距離を置いて、ボディ全体に通っています。 仮に3本のパイプに次々に損傷が起きても、1本残されていれば操縦を続けられるからです。

(ただし、訓練で想定されている故障は2本が壊れるというところまでで、3本が壊れるということは「起こりえない」とされています。まして4本が壊れてどういう操縦を続けるかとなると… → 【追記】参照)

 

これがジャンボ機のフェイルセーフ構造であり、十分なはずでした。

しかしこの日のこの飛行機の不運は、その離れているはずのパイプが、飛行機の終端部に集まったところで被害が出たために、すべてが破壊され操縦不能に陥ったことでした。

このように、万全を期した機械にも、落とし穴は口をあけています。 そして、それを操作するのが「ヒト」であれば、少しの思い違いでも重大な事故につながる可能性があることも、私たちは忘れてはなりません。

 

(この事故でお亡くなりになった坂本九さんのことは #085 2016年6月 上を向いて歩こう…か もご覧ください)


【追記】

この時のパイロットの心中はどうだったのでしょう?

当然油圧をコントロールするパイプが4本あり、1本でも故障することは滅多にない状況であるのに、4つの油圧計が「0」を指示したのです。

 

他の多くのパイロットへインタビューした記事を読むと、「1本壊れたらXXXの操作をする」「2本ならYYYの操作をする」。

実は壊れた時にはそれぞれ「ワーニング(注意/危険)」のランプが点灯します。

それでは3本壊れた時には?

ワーニングの故障を疑う」 ということでした。

 

日航123便のパイロットたちも、おそらく同じような心境だったのかも知れません。

そして、実はすでに早い時間に垂直尾翼が無くなって、そしてそのために操縦が困難になっていたのですが、操縦席をはじめ乗っていた人の誰一人も、尾翼のなくなっていることを目で確認ができません。

いま、操作できるのはエンジンの推力だけになっているのに、フライトレコーダーの記録を見ると、パイロットは最後まで操縦桿の操作を続けていたようです。

油圧を失って上下や左右の操作ができないにも関わらずその操作を続けたのは、フェイルセーフの構造を知ればこそ、ありえない(起こりえない)特殊な事故だったと言えます。


【追記2】

飛行機が飛ぶ理屈を知らないと難しい話かも知れませんが…。

 

あれだけの重い飛行機が空中を飛べるは、翼(主に主翼)があるためというのは理解できると思います。

その翼は揚力という上にあげる力を得るためについています。

揚力はどうやったら発生するのでしょうか?

 

簡単に言えば、前から来る風を上手に下に流すことで上に浮く力を得ています。

他の言い方をするならば、前から来る風(速度で発生する風)を使って、下に落ちないようにバランスをとって空中にいるということです。

つまり、一定の速度(エンジンの推進力だけではなく、様々な方向から吹いてくる風の強さも加味しての速度)に対して、一定の高度が保たれるところで「バランスを取っている」ということになります。

 

それでは、速度を上げるためにエンジンの推力をあげたらどうなるでしょう?

自動車の場合はアクセルを踏めば(エンジンの回転が上がって)前に進んで 100km → 120km となります。

しかし、飛行機の場合はエンジンの推力を増して速度を上げようとすると、同時に先ほどの「揚力」も増すために高度も上がってしまいます

 

また、公園の池でボートを漕いだことを思い出してください。

右に曲がりたい時は左のオールをかくとまがります。

飛行機も同じように、左側のエンジンの推力を増すと右に曲げることができますが、ここにも揚力が絡み左右のバランスを崩すことになります。

 

このバランスを取るために左右の主翼や、水平尾翼、垂直尾翼には「補助翼」があり、この補助翼を動かすのが「油圧」になります。

 

このように、飛行機の操縦には自動車の「平面を動く」という二次元の操縦(操作)に比べて、上下の動きと左右のバランスという三次元の操作が必要になる、大変難しいことを行なわなければならないということです。

もちろん、どんどん最新の技術進歩があり、多くの操作が自動化=コンピュータによる自動操作にかわり、パイロットはそれらをチェック(管理)するという部分は増えるものの、自らの手で操作することは軽減されています。

その代りヒトの心理はおかしな状況に陥った時に、何を疑うのか、何を操作しなければならないのか、ということに対応するために様々な訓練を、パイロットの方たちは重ねています。

 

それでも…

0.0001%の確率でしか起きえない故障(事故)は、ヒトが作った機械である以上起きてしまうのです。


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