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#070 2015年2月 多剤耐性菌

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多剤耐性菌

かつてのかわら版、#020-1 2010年9月 多剤耐性アシネトバクターって? で、少し「多剤耐性アシネトバクター」についてお話ししたのを覚えていらっしゃるでしょうか?

そこでの内容は、板橋区内の病院で「複数の抗生物質が効かない多剤耐性のアシネトバクター菌(MRAB)に入院患者ら46人が感染し、そのうちの27人が死亡、9人は感染と死亡との因果関係が疑われている」という事件でした。

この時の話は、アシネトバクターというのは菌の名前よりも、その前についている「多剤耐性」という言葉が問題だというテーマでした。


抗生物質に対しての「多剤耐性」

以前お話しした「多剤耐性」について、ちょっとおさらいしてみます。

 

ここに100個の、ある細菌があったとします。

この細菌を殺すためにAという抗生物質を投与した時に、90いくつかは殺せても、残りのいくつかはこのAという抗生物質に対しての耐性をもってしまいます(抗生物質が効かない状態)。

そこでこのAが効かない、耐性をもった細菌を100個とした時に、これに向けてBという抗生物質を作っても、また90いくつかには効いても残りには効かないという耐性を持ってしまいます。

このイタチゴッコを繰り返すと、抗生物質のAもBも(そしてCもDも)効かないという、多くの薬剤に対して耐性のある細菌が出来てしまいます。

これを「多剤耐性菌」といいます。

【 多剤耐性菌ができていく仕組み 】

 

多剤耐性をもつのはアシネトバクター菌だけではなく、他の変異を起こしやすい細菌もあるわけなので、今後も出現してくる可能性は否定できません。 

(2010年9月 かわら版より)


いまインドで…

日本国内の話でないと、つい関係のないことと片付けてしまいがちですが、この「抗生物質が効かない多剤耐性菌」が、いまインドで大変な問題になってきています。

最近の調査で、2013年にインドで死亡した新生児の数が、全世界の 3分の1に相当する58,000人に上るという報告が出され、そのほとんどが、この多剤耐性感染症にかかっている疑いが強いということです。


どうしてそんなことに…

この背景にはインドの医療事情が関係してきます。

インドも日本と同様に、処方箋がないと医薬品の購入はできません。

しかしこれが法制化されたのは2013年で、まだ処方箋なしでの違法販売は後を絶ちません。

重度の肺炎や気管支炎といった急性の細菌感染症の治療に使われる強力な抗生物質は、本来、最後の最後に頼るべき薬とされています。

インドでは、寝ていれば自然に治るような軽い病気でもすぐに治そうと抗生物質を常用する人々が増え、また手軽に抗生物質が入手できるということが、薬剤耐性菌を増やす温床となってきています。


その背景には…

残念なことに、「公衆衛生」という考え方が浸透しているのは、一部の先進国といってもいいかも知れません。

十分に生活環境が整っていないインドでは、飲み水や下水、動物や土壌などのさまざまな生活環境に、病気の元になる菌がたくさんいます。

そしてこの菌を摂取した時に、つまり軽度の症状であっても、早く楽になるために手軽に入手できる抗生物質を求め、その抗生物質が効かない、新しい耐性菌(多くの抗生剤に効かない多剤耐性菌)が粗製乱造されていくという悪循環に陥っています。

インドには世界の結核患者の25%に相当する200万人超の人が暮らしており、そのための抗生物質も当然あるのですが、いずれの抗生物質も効かない「多剤耐性を持った結核菌」も見つかっているようです。


対策はどうする?

処方箋で薬(抗生剤)を売るということは法制化されましたが、まだ末端の薬局では処方箋なしでも販売してしまうし、また患者からの「なぜ売らないのか!!」という圧力も強いと聞きます。

この新しい法律、新政策の下では、抗生物質の製造・販売をチェックし、処方箋の記録を付けることになっています。

しかし、法制化することと人々に周知徹底できることにはギャップがあり、実効力を伴うには理解を深めるための最善の方法を記したガイドラインが全ての医療関係者に配られているとはいえ、まだ数年かかるだろうというのが大方の予想です。

抗生物質の誤用リスクについて国民を広く教育することが急務ではありながらも、「人々は深く考えることなく、気軽に抗生物質を使いすぎている」ということが、根本的な問題であるといえます。

 

これは「他山の石」の話ではなく、私たちも病院に行ったときに、本当に気軽に口から出てしまう言葉…。

 

「先生、xxxなので、抗生物質をください!!」

 

この話を調べながら、私は「この現代のペストを次の世代に残してはいけない」と痛感しました。


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