#071 2015年3月 富山化学という会社

 

先月、多剤耐性菌を調べていて… 〜

昨年の夏から秋にかけて、新聞やニュースでもたくさん取り上げられていたエボラ出血熱も、「ウィルスに対して薬(抗生剤)が効かない」という点で、この多剤耐性菌と同じ類の話として考えないといけないものだと気が付きました。

この同時期に、「エボラ出血熱に効果が見込める新薬を富士フィルムが開発」、というニュースが配信されました。

これはインフルエンザの治療薬として富士フィルムが開発した「アビガン®錠」が、エボラ出血熱の治療にも効果が見込めるという内容の話でした。

正直な感想として、「なぜ写真のフィルム会社が薬を開発するの?」というのを感じたのは、たぶん私だけではないのではと思います。


富山化学という会社 〜

正確には、富士フィルムが直接的に開発したのではなく、子会社である富山化学工業株式会社が長年にわたって、インフルエンザをはじめとした抗ウィルス薬として開発してきたのが、この「アビガン®錠(一般名:ファビビラビル)」です。

時代は20世紀末の1998年ごろに遡ります。

富山化学の社内では、インフルエンザなどのウィルス性の病気をターゲットにした新薬を作ることを目的に開発が始まりました。

大手製薬会社では自動化されたロボットなどを使い、膨大な数の薬品の抗ウィルス性を測定し開発を行なっていきます。
しかし潤沢に開発資金があるわけではない、研究員10名足らずの富山化学では、手作業でその作業を行なっていきました。

それでも一週間に数百種類の測定を2万回行なう中で、「T-705」という化合物、ウィルスへの効果があることを偶然に発見しました。

この「T-705」が現在の「アビガン®錠」につながっていくことになります。

富山化学では、富山大学医学部と共同で本格的な試験を開始し、インフルエンザに感染したマウスにこれを投与した結果、効果が認められたため、2000年にカナダでの学会で世界に向けて発表されました。

しかし、この時点ではあまり注目をされませんでした…。


富山化学にとっての不運 〜

この頃にあいついで発売されたのが「タミフル」や「リレンザ」といったインフルエンザの薬です。

それによって医療界や製薬業界は、「もうインフルエンザの新薬ははいらない…」という空気になってきました。

これは富山化学にとっては逆風であり、また資金のかかる研究開発を続けられるだけの体力も減ってきていました。

つまりこれ以上の研究開発費をかけても、「商売として」T-705をベースとした新薬が売れる見込みが薄れてきたということです。

富山化学では、「T-705」を中心とした抗ウィルス薬としての研究開発は中断し、これは「T-705」を応用した、C型肝炎の薬の開発へとシフトしました。


「T-705」がもう一度脚光を? 〜

ところが思わぬ形で世界が動きました。

2005年に流行した鳥インフルエンザは、有効な特効薬がなく、人間にも感染して多くの死者を出しました。

その中で、アメリカの国立アレルギー感染症研究所から委託を受けていたユタ州立大学が「T-705」が唯一鳥インフルエンザに効くということを発表しました。

そうなると今度は、富山化学ではこの「T-705」の開発を会社の責務ととらえて再開し、ヒトに対しての臨床試験も始められました。

しかし大変な費用のかかる研究開発は、富山化学の経営を圧迫し、2007年3月の決算では最終赤字に陥り、累積赤字も膨らんでいました。


富士フィルムと共に 〜

この窮状に富士フィルムホールディングスが、富山化学の買収を申し出て、富山化学は富士フィルムグループの傘下に入ることになります。

実はこれは、「唐突な申し出」というわけではありませんでした。

富士フィルムは創業後すぐの時期から、レントゲンのフィルムの供給を始め、医療業界には関わりの深いメーカーであったこともありますが、デジタルカメラの影響でフィルム需要が減り始めた2000年頃から進める業務改革の一環に「ヘルスケア」を位置づけてきました。


「予防」「診断」「治療」 〜

レントゲンのフィルムというのは、「診断」に関わる重要な材料といえます。

そして通販などでもお馴染みですが、富士フィルムの化粧品やサプリメントといったのは、「予防」に分けられると思います。

いまここに、子会社の富山化学の T-705の技術をいかした「アビガン®錠」をもって、富士フィルムは「治療」の領域にも、新しい一歩を踏み出してきているのだと言えましょう。