#020-1 2010年9月 多剤耐性アシネトバクターって?

 

 多剤耐性アシネトバクターって? 〜

帝京大学医学部附属病院(帝京大学病院)で9月3日に「複数の抗生物質が効かない多剤耐性のアシネトバクター菌(MRAB)に入院患者ら46人が感染していた」と発表されました。
さらにそのうちの27人が死亡し、9人は感染と死亡との因果関係が疑われるということで、現在も捜査中ということです。

最初は「多剤耐性アシネトバクター菌」という一つの言葉と思っていたのですが、「多剤耐性」と「アシネトバクター菌」という2つの言葉の組み合わせだったと分かりました。

このアシネトバクター菌というのは、自然環境の中に普通に存在している細菌で、川の近くなど湿潤な環境を好むそうです。

そして、人の皮膚や動物の排泄物などにもいることがある、他の細菌と同じように比較的日常的にいると思っていいものだと言えます。


 アシネトバクター菌がする悪さ… 〜

この菌に感染しやすいのは、呼吸器系に多く、気管切開の手術などで感染し易いのですが、可能性としては全ての臓器で化膿性感染症を引き起こすことがあるそうです。

しかしこれらは、局所的な治療や抗生物質の投与で治ることが多く、そういう傷口にあっても何の症状も起こさない事もあります。

ですから、普通の状態であるならば、常に死の危険を考えていないとならないような菌ではないのでが、甘く見てはいけないのは、特に(手術後などで)免疫力の低下した患者では、髄膜炎や菌血症・敗血症を起こし命の危険にさらされることもありということです。

もうひとつ厄介なのは、この菌は自分のDNAに他のDNA断片組み込む性質を持つ事から、変異を起こしやすい菌だということです。

つまりこのことが、抗生物質が効かない性質を作りやすい原因になると言えます。
これが今回の「多剤耐性」と言う言葉と結びついてくることになります。


 抗生物質に対しての「多剤耐性」 〜

ここに100個の、ある細菌があったとします。
この細菌を殺すためにAという抗生物質を投与した時に、90いくつかは殺せても、残りのいくつかはこのAという抗生物質に対しての耐性をもってしまいます(抗生物質が効かない状態)。

そこでこのAが効かない、耐性をもった細菌を100個とした時に、これに向けてBという抗生物質を作っても、また90いくつかには効いても残りには効かないという耐性を持ってしまいます。

このイタチゴッコを繰り返すと、抗生物質のAもBも(そしてCもDも)効かないという、多くの薬剤に対して耐性のある細菌が出来てしまいます。これを「多剤耐性菌」といいます。

 

今回はこの「多剤耐性」をもった「アシネトバクター菌」が問題となっているわけですが、多剤耐性をもつのはアシネトバクター菌だけではなく、他の変異を起こしやすい細菌もあるわけなので、今後も出現してくる可能性は否定できません。

【例として分かりやすい数字を用いたもので、実際の数値ではありません】


 「多剤耐性アシネトバクター」といえども… 〜

今回は病院内の院内感染が疑われ話題となりましたが、普通の生活を送っている場合、どこにでもいるアシネトバクター菌であることに変わりがなく、特別な予防の必要があるわけではありません。

もちろん、通常の健康管理でもある「うがい」や「手洗い」の励行は当然ですが、過剰に反応をすることはないと思います。

ただし、風邪を引いたり疲れていたりといった免疫力が低下している時は、注意が必要ですし、また手術後や免疫力の低い方は、おかしいなと思ったら、ここでの記事を鵜呑みにせずに、お医者さんの診察を受けるようにしてください。


2015年2月に、このテーマの継続編を書きましたので、是非ご覧ください。